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自由気ままな旅に出ています


by pepo629
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にわか雨の予報士 4

ふと我に返る瞬間というのは端から見るときっと間抜けなのかもしれない。
萌と逢っているというのになんだか遠くから彼女を見つめているのではないだろうかと錯覚に陥る。
「ねぇ。聞いてるの?」萌の苛ついた声に僕は横に首を振った。(ごめん、聞いてなかった・・)と心で思いながら。
いいや、聞いていた。本当は聞いていたんだけど、自分の中に入ってこなかった。耳がまるでちくわになったみたいに言葉が右から左へ通り抜けていった。

「もぉ。いつもこうなんだから!」ぶすっと拗ねて見せる萌。
萌の体を改めて見つめる。ずいぶん痩せている。最後にあった日はそんなでもなかったはずなのに。僕がずっと黙っていることに不満を爆発させようとした。細い腕を僕に向かって振り下ろそうとしている。叩かれることを察知して、僕は腕を広げた。下ろされる瞬間と僕の腕が広がった瞬間は同時だった。バランスを崩した萌は次の瞬間には自動的に僕の腕の中に倒れ込んだ。

しばらく萌は動かなかった。高校2年の夏ふざけ半分でキスをして以来だった。体と体の接触は。泣き出すのかと思ったけど、すすり泣く声はない。
「泣きたいときは泣いた方が良いぞ」

その言葉を聞いた後もじっとしたままだ。
沈黙は続く。萌の髪の毛と萌の体を僕は胸で受け止めていた。
そして彼女が今精神的に参っていることを感じずにはおれなかった。
体を抱き寄せて、僕は目を閉じた。彼女の心に入ってゆくにはこうやって集中することが必要だから。

にわか雨の予報士 3

にわか雨の予報士 5
by pepo629 | 2005-07-13 11:18 | Short Story