自由気ままな旅に出ています


by pepo629
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にわか雨の予報士 7


新しいことを始めるにはきっかけと区切りが必要だ。
僕ら姉弟と両親が住んでいるところは神戸市。海が遠くに見える山の手の高台に家がある。しょっちゅうバイクを走らせて一人で海へ行く。気分転換にはお金もかからずに気楽な方法だからだ。

別れ話を切り出した僕の頭は完全に混乱していた。これで良かったんだろうか、やっぱりやめた方が良かったんだろうかなんてことも考えた。

けれど、すっきりとしたかった。
重苦しい空気に包まれるのはもうゴメンだった。

目の前にある海はなんの答えも出してはくれない。自分で出さなければならないことは分かっている。

授業にでて、規則正しい生活を送り、そしてバイクに乗って気分転換をして2週間が過ぎた。携帯番号は変えていないが、その後も七菜からの連絡はこない。そろそろ新規の携帯が発売されるみたいだし、思い切って連絡先も変えようかなと思い始めている。





そして前期試験の日程が発表された金曜日の午後、家には直接帰らず市立の図書館に寄った。この図書館は姉貴の通う音楽学校のすぐ側だ。


しばらくぼぉっと本棚を見つめていると新着本の棚の中に
「あした天気になぁれ!」
というなんてことない題名の本があった。
表紙には天気予報のマークがいくつか並べられていて、思わず手に取った。

天気予報を聞くことが毎日の日課になっている。
それを聞いたらなんだか嬉しい気持ちになるなんて言うのもおかしいかもしれない。
ずいぶん昔、運動会だったか、遠足だったか晴れて欲しいと思う日に限って
雨が降ったことを恨みに思っているからなのかもしれない。
そのとき以来自分でも天気を予想できるのは面白いんじゃないかと思うようになったからだ。

加えて言えば、父の仕事が環境自然を研究する仕事というのも根底にあるのかもしれない。
「人の生活って言うのは自然のおかげなんだ。自然環境が変わるってことは人間の生活が大きく変わるんだ。ボーイスカウトの時、キャンプをする度感じるだろ?水や木を守らないと自分たちの体の中まで汚れてしまいそうにならないか?自然に感謝しなくちゃなぁ!」

父は無精ひげを伸ばしている。夏はTシャツと短パン、冬はボロボロのセーターとチノパンを着っぱなし。殆ど服装を変えることはない。

唯一居間に飾られている写真に二人が結婚したときの正装姿が親父の一張羅という感じだ。

何でこの二人が結婚したんだろう。
仕事で家を離れる母より僕らは父との生活が長い。
母の日だろうと運動会、文化祭それぞれの学校の行事でやってくるのは見た目、近寄りたくないと思われる位汚い格好をした父の姿だ。

萌の言葉がよみがえる。
「幸福感を求めて修行に入ったんだって。家族に不幸があったら精神的に参ってしまうのは分かるんだけど、宗教に求めるなんてねぇ、絶対おかしいよ。もしかして友達に相談できないくらい辛かったのかなぁ。」

手に取った本に【雨がどうやって降るんだろう?】という質問に子供向けに書かれた文章を見ながら、(友達どころか恋人にだって相談してないよ!!)と怒りをぶつけた。
本を読みながら思い出して感情を爆発させたって大人げないことだとは分かっているんだけど。

【空気中に含まれている水分が空へ蒸気になると雨の元になる雲が出来るんだよ!その雲の中に水がたくさんあふれると耐えきれなくなった雲が水を外に出す・・・これが空から降る雨になるんだよ!】

答えは涙と同じなんだな。と正直思った。
泣きたいくらい辛いときは人間だって涙を溜めるもんなぁ。

ふと背後に人の気配を感じた次の瞬間、
「やっほ~!勉強頑張ってるんだね。」
エルメス・冬美だ。(勝手に名付けてしまった)
「どうも。先日はお世話になりまして。」
カチコチの機械的な会話になってしまう。

「釣れないなぁ、なんかあったの?」
そんなことを聞かれても彼女には複雑すぎる事情は言えない。
無意識に精神的なストレスを感じているのか、4キロも痩せてしまった。
「新しいことを始めるきっかけを探してるんですよ。来週からは試験ですし。それはそうと、冬美さんは試験無いんですか?」
「こっちは毎日が試験なの。音楽って奥が深いんだから~。それより、涼子最近変じゃない?」「どんな風に?」思わず聞いてしまった。
十分個性的で周囲からは変わっていると言われ続けてきているからだ。
「なんか奥に入り込んで抜け出せないって言うか、今までとは違うんだよね。雰囲気も暗くなってしまった気がするし。そうかと思えば明るすぎたり。不自然すぎるんだけど。」
「多分鬱なんですよ。姉貴結構繊細で。」笑って取り繕った。
「笑い事じゃないと思うんだよね。だって高校時代から知ってるんだよ、涼子なんだか変なこと言い出すんだもん」深刻な顔だ。

「冬美さん、外で話をしませんか・・・・・」
話が長くなりそうだったので、僕はそう言った。図書館で話を続けるには周囲に迷惑がかかりそうだと思ったからだ。

幸運にも図書館と同じ建物内に喫茶店がある。コーヒーはもちろんオーナー手作りのプリンがおいしいことは証明済みだ。

冬美さんに少し待って貰って、先ほど手に取って見ていた本とそして天気予報士の資格試験に関する本の2冊を借りた。

にわか雨の予報士 6

にわか雨の予報士 8
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by pepo629 | 2005-07-19 11:41 | Short Story