自由気ままな旅に出ています


by pepo629
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

にわか雨の予報士 9


「お腹が減らないか?」父に言われて自分のお腹が食べ物を欲していることに気が付いた。
「そうだね。美味しいご飯を食べよう」バイクに再び乗った。
お腹がすいて食べたいと思うことは大事なことだと思う。
痩せて今までの魅力を失った萌の姿を思い出す。
「食べられないって自分の身に起きないと分からない。食べたいって思っても体が拒否するんだもん。」





睡眠欲・食欲そして性欲。三大欲求というのは実にうまく言い表したものだ。
眠たいから寝る。お腹が減ったから食べる。そして・・・。

萌にキスをしたいと思ったのは中学の頃からだ。お互い付き合っている恋人が居なくて、二人でよく時間をつぶした。ご飯を食べに行ったり、買い物に付き合ったり、映画を見たり・・・。自然だった。男子生徒からの人気投票で常に3位以内だった萌。彼らからの告白は萌にとって日常茶飯事だった。そういう噂は流れてくるのに時間は掛からない。幼なじみの僕にとって、彼女の好みや彼女の部屋のことなどを聞かれるのはしょっちゅうだったから。けれどどう言うわけだか彼女はすべての告白を丁寧に断っていた。

そうして4年が過ぎた。高校2年の夏・・・初めて彼女にキスをした。
七菜にも言われ、初恋の子にも言われた言葉。「私じゃ役不足だから」
萌は全くそういう台詞は言わなかった。
キスされている間も萌は抵抗することもなく、自然の流れに任せた。
けれど、今まで彼女が取ってきた態度と僕に対する態度は全く同じだった。

唇が離れてしばらくして、「涼の唇は温かいね。ほっとする」と小さな溜息に似た息を吐くと「でも、私は貴方じゃ、物足りない。涼もきっと自分でも分かってるでしょ?涼にぴったりな女性はもっと貴方を等身大に見てくれる人。貴方のママの仕事やステイタスなんか無関係に貴方自身を見てくれる人。貴方は恋人に思いっきり甘えたいタイプ。」
くすっと笑ったかと思うと、僕の高ぶる気持ちを落ち着かせるためか頬に軽いキスをして、「今日は一日楽しかった。またプール行こうね。有り難う!」と立ち上がった。

これを失恋と呼ぶとすれば、僕は彼女に振られた。振られたって言うのに悲しみはない。まるで風が吹いたみたいに爽やかだ。


萌は大人だった。
きっと彼女は精神的に大人の男性を求めていたんだろう。同世代の男たちは彼女にとって幼稚に写っていたのだろう。確かに彼女にお似合いなのは包容力のある精神的に大人の男性だ。

大きな理由の一つに彼女はその頃から、大好きな父から恋人が出来たからと言われ、母からは愚痴を聞き、彼女の恋人の存在を感じていた。複雑な家族模様を友人にも言えず、ただ彼女自身の心にしまい込んでいた。恋をすることでいくつかのストレスは発散できたかも知れない。けれど、彼女にぴったりな男は中学・高校時代には見つからなかったようだ。

あのキスからしばらくして、萌から七菜を紹介され、七菜が僕に告白するまでそう時間は掛からなかった。
当時、萌が気を遣って七菜を紹介してくれたんじゃないかと気をもんだが、心配無用だった。大学入学とほぼ同時期、恋人をようやく見つけたらしく、デートを楽しんでいる萌を何度か見かけたからだ。

七菜に直接逢うことなしにメールだけで別れ話を持っていくことに本当に悩んだ。
3ヶ月が過ぎようとしている今でもあの日送った別れ話メールを消したくなることがある。
メールって言うのは単純に話をするには良いけれど、心の話をするのは、絶対目と目を合わせて話すべきだ。なのに・・・。

考えてみれば、七菜との付き合いが失恋の痛手を癒すためだったのかもしれない。正直、彼女を愛したつもりになっていただけなのかもしれない。
それでも、3年近く付き合った。最初はどうであれ、年月は彼女への愛を膨らませるのに十分すぎるくらいだ。

多くの人が思っているだろう。携帯電話は便利だ。しかしその一方で本当に心と心の距離は縮まったかと言われれば、嘘だ。人間関係って言うのはそんな機械で良くなったり悪くなったりするほど柔じゃない。感情を表すという根本的なことを最近忘れているような気がする。絵文字で送られてくる文字は文字に過ぎない。
実際目の前で逢って話したとき、いかに人って話すのに時間が掛かるんだ、反応を待つと言うのはこういうことなんだと気が付かされることが多々ある。

事実メールだけで実際に逢って話したことのない人間との関係はとても脆い。
すぐに崩れる。勝手に作られたイメージだけの関係だから。
壊れてもすぐに新しいメール友達が出来る。そしてこれは繰り返される。
でもそういう関係を楽しむのが今の時代。誰も気にしてはいない。


母が普段からこぼす愚痴は今の僕にはぴったりに思える。

人格や生活なんていうことは考えない。
「芸能人と同じなの」母は断言する。
「人はイメージしか追っていないの。実状なんてないのよ。生活感を感じさせないような人間なんて全く魅力無いのにね。」


にわか雨の予報士 8

にわか雨の予報士 10
[PR]
by pepo629 | 2005-08-18 22:22 | Short Story