自由気ままな旅に出ています


by pepo629
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にわか雨の予報士 12


「ちょっと席、外すね」
新鮮な空気を吸いたくなった。部屋の広さに対して人数も多いし、そして何より話題が濃くて重すぎる。昼間から話すような内容ではない。

「涼、父さんも外に出るよ。ここはあまりにも苦しすぎる」ようやく口を開いた父の言葉。
「支払いすませるからその辺で待ってて」頷いて立ち上がった僕に横にいた海ちゃんが手を握った。薄いピンク色のマニキュアの塗られた細い指。
温かい温度が伝わってきた。
言葉はしばらく出てこなかったが、海ちゃんはためらうようにこう呟いた。
「一段落したらゆっくり話すから」

僕は優しく母の指一本一本を握り返した。





ふすまを閉め、廊下に出る。隣の部屋で宗教団体が集会をしているという。
奥に曲がったところに部屋はある。声がする。笑い声はない。話し声なのか
それとも神に何かを祈っているのか・・・、はっきりしたことは分からない。

姉貴があそこにいるのか?
そして七菜・・・が彼女を誘った・・・?

首を振った。ありえない。
信じたくなかった。
まるで他人のように思えたニュースの一画面が頭をよぎる。
家族である姉貴が、そして恋人が関わっているなんて・・・。

母は一体どこまで知っているんだろう。
どこまでが真実なのか、多分自分で調べない限り事実かどうかを信じられない。外部からは何だって言えるからだ。

思い出したようにトイレに入った。備え付けの鏡で自分を映すと、青白い顔が浮き出てくるように見える。
何やってるんだ、どうすれば良いんだ。
気力で乗り切るしかない。なんとか良い方法を探すしかない。

顔を叩いた。まるで相撲の力士が取り組みをする前に行うような気合いを入れるために。
「有り難うございました。またお越し下さい。」女将さんの声に
「おいしい昼ご飯を有り難う。」と返し、料亭の外に出た。

もうすっかり夏の日差しだ。強い太陽光線で革ジャンを着てる僕にうっすら汗がしみ出た。

しばらく歩いて遠くに見える天橋立を見つめた。海と不思議な形の入り江。
なんでこんな形が上手くできるんだろう。自然っていうのは本当に計り知れないものがある。

ふと気が付いたら携帯がちかちか光っている。着信かメールが来たという印だ。

「幸せはすぐ側にあると信じていました・・・・ クローバー」

これを読んだ瞬間、今までのもやもやしていたことが消えた。
確信した。
僕がしなくてはいけないこと、そして自分しかできないこと。それは目の前にある。

意を決して、料亭に戻った。
今まで自分がご飯を食べていた部屋ではなく、その部屋より少し奥に曲がったところのふすまの前に立った。恋人と姉貴がいるだろうその部屋のふすまの前に。

にわか雨の予報士 11

にわか雨の予報士 13
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by pepo629 | 2005-09-29 15:32 | Short Story